愛犬・愛猫が「癌」になってしまったら、どんな治療を考えますか?NO.1
平均寿命が大きく伸びてきて愛する犬、猫と沢山の時間を過ごせるようになってきたのは嬉しいことですよね!
私たち人間も年齢を重ねると癌は命を奪われる恐ろしい病気として意識されますが、実は犬の死因も2頭に1頭以上「癌」の時代となっているようです。
人間に対する医療技術が発達しているのと同じように動物病院における医療技術も日々進歩をしています。
この医療技術の目覚ましい進歩により、愛犬・愛猫の平均寿命はここ30年で大幅に伸びており、特に犬はおよそ2倍に伸びて14歳を超えてきています。(全犬種の平均寿命、出典:ペットフード協会「平成30年全国犬猫飼育実態調査 結果」)
しかし、この寿命の長期化は、「癌」にかかる犬や猫の数にも大きな影響を与えています。
なんと犬の死因の約50%が「癌」によるものとなってきているのです!
人間は何かしら痛みや日常の変化で「体調がおかしいな?」と思って病院に行きますよね。しかし、犬や猫は痛みがあっても言葉を発せないので、飼い主さんが気付いてあげないと病気を見つけてあげる事は難しいです。
おかしいと思って病院に連れて行った時には、もう余命が短く手遅れなんてケースがたくさん出て来てしまいます。悲しいですよね。
ただ、病院で愛犬や愛猫が、「癌」と宣告されると、飼い主さんとしては何とかしてあげないと、と色々な治療法を探すと思います。
今回は、犬や猫における癌の一般的な西洋医学の治療法と三大療法以外の可能性も見ていきたいと思います。
記事監修
獣医師 西村 美知子 ブルーミントン動物病院院長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業後、東京都武蔵野市吉祥寺で開業、2009年に現在の 東京の西荻窪に移転。 自然療法中心の病院です。検査から治療まで、精神的にも身体的にもストレスをできるだけかけずに動物さん個々が本来持つ「治癒力」が動き出すよう、様々な 自然療法をご提供しています。
癌の三大療法
現在、動物病院の癌の治療においては、以下のような三大療法が基本的なものとして行われています。
①外科療法 手術で癌を切除する
②化学療法 抗癌剤で癌を叩く
③放射線療法 放射線で癌を縮小させる
と、この3つの療法が一般的には 癌の三大療法 と呼ばれています。
私たち人間の癌療法と変わりない治療が動物病院でも行われているんですね。これら三大療法は、メリットもあればデメリットもあります。
それでは、1つずつ見ていきたいと思います。
①外科療法
外科手術は「治癒」「生活の質の向上」などの目的で行うことが多いです。
癌組織を切除する治療法で、完全に癌組織が除去できれば、完治が見込める治療です。
しかし、悪性腫瘍では完全に除去できるケースは少ない場合が多く、体に残った癌組織によって病気がさらに進行してしまうこともあります。
つまり、手術したときにすでに周辺組織やリンパ節や肺などにわずかな腫瘍細胞が散ってしまっている場合には、元々の癌を取り除いても、数週間~数ヶ月後に転移した先で腫瘍が再発する可能性が高いのです。
この場合は化学療法など、全身的に腫瘍細胞の増殖を抑える治療を併用することもあります。
外科療法では、腫瘍組織とともに、正常な体の一部も摘出することが多いため、手術によって体の機能に影響が出ることもあります。
しかし、適切な技術を使うことができれば、飼い主の皆さんが思ってるよりもはるかに大きな手術でも動物は問題なく適応します。
たとえば、脳や脊髄にできた腫瘍でも手術が可能ですし、肝臓や腸や腎臓といった内臓も必要と判断されれば手術で一部摘出してもちゃんと元どおりの生活を送ることも可能です。
また、口の中や顔面にできた腫瘍の場合も、機能や顔の形を大きく損なうことなく治療可能な場合も多くあります(個々の症例の病変の大きさや場所により、手術の影響は異なりますので、詳しくは担当医にご相談ください)。
ただし、腫瘍の種類によっては外科療法だけでは不十分なこと、外科療法には適さないことなどがありますので、治療方針の決定は担当医にご相談してみてください。
②放射線療法
放射線治療は、放射線照射装置を持っている施設でしか行うことができない治療法です。
放射線療法がもっとも多く使われるのは、外科手術には不向きな場所にできた腫瘍(脳腫瘍、鼻腔内腫瘍、心臓の腫瘍など)や、大きすぎて手術が不可能な場合、手術だけでは取り残しがでてしまうタイプの腫瘍を治療するときです。
一般に腫瘍細胞の方が正常細胞よりも放射線に弱いという特徴があるため、このような腫瘍に対し、腫瘍とその周りの正常組織を含めた範囲にX線を照射します。
これは、照射範囲に含まれる腫瘍細胞と正常細胞の両方に対して、ダメージを与えることを意味します。
放射線療法の効果は、細胞分裂のときに出るので、常に分裂している細胞ほどダメージが出やすい、ということになります。
つまり、腫瘍細胞のように常に分裂・増殖を繰り返している細胞には大きなダメージを与えられますが、分裂していない周りの正常細胞にはダメージが出にくい、というわけです。
ただ、場合によっては障害が起こることもあります。障害の代表的な例としては脱毛、皮膚の黒変などが挙げられます。
しかし、放射線治療は全身に施せるわけではありません。
体の一部に限った腫瘍に対して用いられます。
さらに、照射した部分には効くけれども、照射の外にある腫瘍細胞には一切効き目はありません。
こうした意味で、放射線治療は外科手術と同じ「局所療法」に分類されます。
これに対して、抗癌剤などの全身に行き渡るお薬で治療するものを「全身療法」と呼びます。
放射線は狙った部位のみにきちんと照射しないといけませんから、ペットが動いてはいけません。そこで治療ごとに全身麻酔をかけて行うことになります。
治療回数は治療目的や部位により異なります。
外科手術と同時に実施する場合(術中照射)や数回~9分割(週3×3週)、15分割(週5回×3週)、30分割(1日2回で週5回×3週)などの頻回照射まで、状況に合わせて治療計画がたてられます。
週に1~2回の治療を行う場合、副作用のリスクが高くなります。
体の部位によって、正常組織が耐えられる放射線の線量はことなります。
副作用を出さずに治療効果を得るために、獣医師と相談しながら照射回数と頻度について飼い主さんのスケジュールを考慮しながら計画を進めていきましょう。
<外科手術との違い>
治療した局所にしか効かない、という点では外科手術と一緒ですが、放射線療法の場合は「照射範囲の中で、正常組織を温存しながら癌組織に効かせることができる」といったメリットを持っています。
ですから、鼻の中や脳内など、手術で大きく切除することが不可能な場所にできた腫瘍でも、周りの正常組織ごと、広い範囲で照射して、腫瘍組織を選択的に縮めることが可能となります。
ただし、腫瘍の種類によっては放射線の効きやすいタイプと効きにくいタイプがあり、効きにくいタイプの腫瘍では、放射線治療をしても腫瘍が縮まない、短期間で再発する、といったことが起こりえます。
また、放射線治療は手術の代わりとなるものではありません。
このため、無理なく手術で取りきれる場所では、外科手術切除することが多いようです。
③外科療法(抗癌剤)
外科療法と放射線療法が局所療法、(治療した場所の癌細胞にしか有効でない治療法)であるのに対し、化学療法では、抗癌剤を注射や内服薬のかたちで全身投与し、全身的に腫瘍細胞を攻撃します。
このため、化学療法はリンパ節や肺など、全身性に微量の腫瘍細胞が飛び散っていると考えられるときに、転移の進行を予防したり、遅らせたりするために有効な治療法になります。
リンパ腫や白血病など、はじめから全身性の腫瘍には、化学療法のみで治療を行います。(一部のリンパ腫は、手術で切除後の治療になることもあります)
腫瘍の種類によっては、抗癌剤の効きがよく、一度の治療で腫瘍がかなり小さくなることもありますが、抗癌剤に対する反応性がよくない腫瘍も多くあります。詳しい適応は、担当医にご相談ください。
また、みなさんもご存じかもしれませんが、抗癌剤のデメリットの一つに挙げられるのが、全身の正常な細胞にも影響を及ぼすということです。
犬や猫は抗癌剤の副作用があまり出にくいといわれていますが、言葉を発せない愛犬、愛猫にとってはどのように感じているのを飼い主さんがわかってあげるのはとても難しいですよね。
現在、獣医療の現場では、まずは上記で解説した三大療法がスタンダードな治療法となっています。
獣医師と愛犬・愛猫の癌の状況などを考え、最適な治療法を相談して決めていくといいでしょう。
三大療法での回復が見込めない場合や三大療法での治療を試してみたものの予後が思わしくない場合、高齢犬で免疫力が落ちていてもともと治療を受ける体力がない場合などは、次回以降に取り上げる予定の他の療法も試してみることも検討してみるとよいでしょう。
そして、どんな治療法を選択するとしても、愛犬・愛猫の「生活の質」(QOL:quality of life)(注1)を落とさないよう、治療を受けさせてあげることが私たち飼い主にとって大事なことですね。
(注1)QOLについて(人間と同じように犬や猫にも当てはまります)
治療や療養生活を送る愛犬、愛猫の肉体的、精神的、すべてを含めた生活の質を意味します。病気による症状や治療の副作用などによって、治療前と同じようには生活ができなくなることがあります。
QOLは、このような変化の中で愛犬や愛猫が生活の質の維持を目指すという考え方です。
治療法を選ぶときは、治療効果だけでなく、QOLを保てるかどうかを考慮していくことも大切です。
<国立がん研究センター「がん情報サービス」より一部抜粋>
犬・猫の「癌 三大療法」以外の可能性
ここまで、三大療法について一つずつ見てきましたが、これら三大療法は、治療自体が体に大きな負担をかけるため、副作用に苦しんだり、場合によっては副作用によって寿命を縮めてしまうこともあります。
そこで近年QOLを重視する獣医さんを中心に、従来の三大療法と併用するなど注目されてきているのが代替療法になります。
これについては、【代替療法で犬や猫の癌を救う効果はあるの?】 の記事で掘り下げて書きたいと思います。
また、新たな代替療法の1つでPOC療法という療法を実施している動物病院があります。
この療法は免疫細胞を元気にし、自身の治癒力を高めることが期待されている、これまでにない新しい代替療法です。
新しい代替療法⇒POC療法
この代替療法は東京大学医学部の研究室で癌細胞に対する抗癌効果が証明され効果に関する論文も発表されています。
論文掲載の欧米医療ジャーナル
三大療法と、この様なエビデンスがある代替療法を合わせて癌の治療をサポートしていければ、将来もっと愛犬や愛猫がQOLを高く過ごしていけるのではないかと期待が高まります。
この記事へのコメントはありません。