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犬の肥満細胞腫って肥満の犬がなるの?
名前の通り「肥満細胞の癌」です。
皮膚癌で一番多くみられ、皮膚腫瘍全体の16~21%となっています。
しかし、“肥満”細胞=太っている犬の癌ではなく、もともと全ての犬の体には「肥満細胞」という細胞が存在しています。
肥満細胞は身体のあちこち、赤血球や白血球みたいに全身に存在する細胞でその「肥満細胞」が癌になってしまう病気のことを言います。
腎臓や肝臓みたいに特定の臓器を作るわけではないので、私たちは普段は目にすることはありません。
肥満細胞は皮下組織という皮膚のしたにある組織に多く見られます。なので、見た目には「皮膚のしこり」として見つかることが多く、犬の皮膚・皮下組織にできる癌のうち、20%ほどが肥満細胞腫だと言われています。
また、肝臓や脾臓、骨髄にもみられることがあります。
肥満細胞腫の症状も様々で、外科切除で完治するケースもあれば、かなり早い時間で転移してしまう悪性度の高い(余命も短い)ものもあります。
記事監修
獣医師 西村 美知子 ブルーミントン動物病院院長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業後、東京都武蔵野市吉祥寺で開業、2009年に現在の東京の西荻窪に移転。 自然療法中心の病院です。検査から治療まで、精神的にも身体的にもストレスを できるだけかけずに、動物さん個々が本来持つ「治癒力」が動き出すよう、様々な 自然療法をご提供しています。
「肥満細胞」はどうやって生れるの?
血液関係の細胞(白血球、赤血球)と同じく骨髄で生まれる細胞で、その後全身に転移していきます。
さらに肥満細胞はヒスタミンなど炎症に関わる物質を分泌する細胞で、実際に肥満細胞が刺激されると、強い炎症が起こります。
そのため、癌になった肥満細胞は他の癌と比べて炎症が強く、さらには出血しやすくもなります。
肥満細胞腫にかかりやすい犬種は?
ボストンテリア、ボクサーは好発犬種と言われています。
さらに、ブルドッグ、バセットハウンド、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ビーグル、スコティッシュテリア、なども好発犬種とする文献もあります。
近年では、パグは皮膚の肥満細胞腫が多発することが知られています。
肥満細胞腫の原因は?
今のところはっきりとした原因はわかっていません。
ただし、好発犬種があるように、遺伝子が関係している可能性はあります。
特にc-kit遺伝子という遺伝子に異常があると、肥満細胞が癌になることが知られています。
しかし、c-kit遺伝子に異常がなくても肥満細胞腫になってしまう犬もいます。
逆にc-kit遺伝子に異常があっても、肥満細胞腫を発症しない犬もいるようです。
ちなみに、遺伝子について、一般的な話としては、その病気の遺伝子を持っていたとしても必ずその病気になってしまうわけではありません。
病気になるには、遺伝子が存在するだけではなく、その遺伝子のスイッチをいれる必要もあるのです。
しかし、今のところは肥満細胞腫の遺伝子のスイッチが何なのかはわかっていません。
また、肥満細胞は炎症物質を分泌することから、何かしらの炎症が、肥満細胞の炎症に関係しているのでは?と考えられています。
犬の肥満細胞腫の症状、余命は?
肥満細胞腫で最も多い皮膚・皮下組織型は、いわゆる「皮膚のしこり」として発見されます。
しこりは一か所のこともありますし、多数見られることもあります。
基本的には体のあちこちにできますが、中でも胴体や陰部周辺にできることが多いといわれています。
なかでも、パグは皮膚のあちこち、複数のしこりができやすいと言われています。
症状
他の癌との区別が難しい
ほとんどの皮膚・皮下組織型の肥満細胞腫は、バリエーションが様々で、見た目で他の癌と区別することが難しいです。
場合によっては、ケガなどの炎症にも見えることがあるので注意が必要です。
グレードによって命に関わることも
また、肥満細胞が分泌するヒスタミンなどの炎症物質が、しこり自体の炎症を引き起こしますので、虫刺されのように赤く腫れたり、場合によってはかさぶたができることもあります。
刺激を与えられると数時間でひどく腫れてしまう場合もあります。
さらに、その分泌された炎症物質が全身をめぐることで、嘔吐や低血圧、不整脈などの症状を引き起こすことがあり、グレードが高くなると呼吸困難で命に関わる状態にいたることもあります。
余命
◆悪性度は3段階
グレード1 悪性度は低く、予後比較的長期間望める
↓
グレード3 最も悪性度が高く、余命も短くなる
具体的な余命については、肥満細胞腫と同じ名前がついても、バリエーションは様々なので、余命も様々です。
受診のポイント
他の癌と比べ、皮膚・皮下組織の肥満細胞腫は炎症が強く、やっかいですので、そのようになる前に、体にしこりを見つけた段階で動物病院を受診されることをお勧めします。
肥満細胞は巨大化して進行してしまうと、うまく治療ができなくなることも多いので、早期発見、早期治療が重要です。
どんな検査をするの?
肥満細胞腫が疑われるとき、針を刺してしこりの中の細胞を吸引し、顕微鏡でチェックする検査をします。
肥満細胞腫の顕微鏡所見は特徴的ですので、多くの場合この針吸引検査で診断することができます。
内臓や、リンパ節への転移は、レントゲン検査や超音波検査、CT検査などで調べます。
これらの検査に加え、外科切除した癌組織を調べる「病理検査」を行い、肥満細胞腫の悪性度を調べていきます。
肥満細胞腫の治療法は?
肥満細胞腫の治療方法は大きく分けて3つの方法があります。
それぞれの治療方法は単独で行うこともあれば、複数の治療方法を組み合わせて行う場合もあります。
1:外科療法
2:化学療法(抗癌剤)
3:放射線療法
外科療法
体にできた肥満細胞腫を外科手術によって切除する方法です。
肥満細胞腫の治療で最もスタンダードな治療方法です。
肥満細胞腫は他の癌と比べて違う点は、癌を切除する時に、見た目よりも大きく切除する点です。
肥満細胞腫は、癌細胞の多くが見た目よりも広範囲に存在しているため、見た目のしこりだけを切除すると、細かく広がった癌細胞をとり残してしまい、再発させてしまいます。
そのため、より広く、より深く切除する必要がありますが、これは肥満細胞腫の悪性度が高いほど、より広範囲に切除しないといけません。
指先にできた肥満細胞腫は、指ごと切断することもあります。
また、陰部や肛門近くに肥満細胞腫ができてしまうと、広範囲な切除ができないケースもあるため、放射線療法や化学療法を組み合わせ、取り残した癌細胞を抑え込む治療を併用します。
化学療法(抗癌剤)
抗癌剤を投与することで癌細胞を叩く治療法です。
化学療法は通常、外科手術で取り残した癌細胞や、外科手術不可能な肥満細胞腫、再発性の肥満細胞腫、そして他の臓器に転移している肥満細胞腫に対して行われます。
ちなみに、東京大学医学部研究室での研究の成果として、通常の抗癌剤とPOC療法に使われている、有機物の性状を持った極小粒径の炭素を併用した場合、抗癌剤の効果がより発揮するという論文が発表され欧米のジャーナルに掲載されました。
ステロイド
肥満細胞腫に対しては様々な抗癌剤が使用されますが、中には悪性度の低い肥満細胞腫に対しては、一般的に「ステロイド剤」と呼ばれるプレドニゾロンを使用することがあります。
ただし、その場の癌細胞を抑え込むことはできても、最終的な延命効果はあまりなく、しかもだんだんとプレドニゾロンが効かなくなってくるため、その後の対応については十分考えておく必要もあります。
ある程度、悪性度が進んだ肥満細胞腫は、以前はステロイドはもちろん、様々な抗癌剤を組み合わせて治療を行っていましたが、なかなか有効的な方法がありませんでした。
分子標的薬
近年は「分子標的薬」という化学療法が実施されるようにもなりました。
皮膚・皮下組織の肥満細胞腫では、前述したc-kit遺伝子に異常をもつ犬がいます。
この場合、特定の分子標的薬が効果を示す可能性が高く、今では化学療法を実施する際は、多くの動物病院で取り入れるようになっています。
放射線療法
放射線療法は、外科手術で取り残した癌細胞を叩くために外科療法の後に実施されます。
放射線療法は、放射線自体に細胞を破壊する力があります。
放射線を、癌細胞に照射することで、細胞を破壊する治療の方法です。
実際には、癌細胞への照射は複数回実施しますが、毎日照射する方法や一定の間隔を空けて照射する方法など進め方はいくつかあります。
これにより、長期間、癌細胞を抑え込むことができます。
デメリットとしては、放射線は癌細胞だけではなく、正常な細胞をも破壊してしまうため、中には皮膚がただれてしまったり、毛が抜けてしまうなどの副作用が見られることもあります。
肥満細胞腫の予防方法
肥満細胞の予防法は今のところ見つかっていません。
しかし、見た目には他の癌との区別がつきにくいので、ただのしこりでも、様子を見ないでなるべく早く受診してチェックしてもらうことが大事です。
ただ、癌について一般的に言われていることは、不適切な食事や肥満、強いストレスが癌の発症と関わっていると考えられています。
そのため、普段から良質な食事を食べさせるようにする、適切な体重、体系を維持する。余計なストレスをかけないようにするといったことが重要かもしれません。
普段から笑顔で話しかけて、病気早期発見を兼ねてマッサージなどのスキンシップをしてあげてくださいね。
西荻窪のブルーミントン動物病院では、東京大学医学部 肝・胆・膵外科の研究室で研究が進められている植物由来の自然素材を活用したPOC療法という最新の治療法で肥満細胞腫の再発事例に対して改善事例が出ています。
他にも膀胱癌の消失症例、肝細胞癌の縮小症例など治験開始から間もない中、続々と好事症例認められています。
肥満細胞腫にも効果が期待されるPOC療法はこちら
お取り扱い動物病院・・・ブルーミントン動物病院
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