【獣医師監修】犬のリンパ腫は良性悪性ってあるの?完治はできる?

  記事監修
  獣医師 西村 美知子 ブルーミントン動物病院院長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業後、東京都武蔵野市吉祥寺で開業、2009年に現在の 東京の西荻窪に移転。 自然療法中心の病院です。検査から治療まで、精神的にも身体的にもストレスをできるだけかけずに動物さん個々が本来持つ「治癒力」が動き出すよう、様々な 自然療法をご提供しています。

リンパ腫ってどんな病気ですか?

人間でもよく耳にしますが、犬にもリンパが存在します。

リンパと聞くと、癌のイメージだったり、体の大事な部分といったイメージで、どのような働きをしているものなのか、すこしリンパについてみていきたいと思います。

体の中には、動脈と静脈のほかに「リンパ管」と呼ばれる管(くだ)があります。

リンパ管は、全身の皮膚のすぐ下に網目状に張り巡らされていて、このリンパ管の中には「リンパ液」という液体が流れています。
リンパ液は、タンパクや白血球などを運びます。


また、腋窩(えきか:わきの下)や、首の付け根、そけい(脚の付け根)などには、「リンパ節」という組織があり、感染や癌が全身へ広がることを抑える役割を持っています。
このリンパ節は、「扁桃腺」「胸腺」「骨髄」「腸内のパイエル板」など、体の様々な部位に存在しており、身体の外から侵入した病原菌や、カラダの中で発生した癌細胞を撃退します。


その時にリンパ節はしばしば細菌とのたたかいのために炎症を起こしますが、それは身体のあちこちで炎症が起こることを防いで身体を守る働きをするためにリンパ節で炎症を起こすのです。

 

しかし、免疫力などが低下し、たたかいが弱くなると、リンパ節に老廃物や病原菌が溜まってしまい、リンパ球が腫瘍化してしまうのです。

 

 

犬のリンパ腫ってどんな癌?良性もあるの?

リンパ腫は、犬の癌の中でも比較的発生の多い癌です。

動物の体には、あちこちにリンパ節という組織が存在するのですが、犬のリンパ腫は、血液中に含まれる白血球の1種であるリンパ球が癌化する血液の癌です。


リンパ節自体、多数存在するため、お腹の中のリンパ節が癌化したり、あるいは体の表面に存在するリンパ節が癌化したり、それらがリンパ節以外の様々な場所に転移させてしまうので、とても恐ろしいんです。

癌が発生する場所によって、同じリンパ腫でも色々なパターンが存在します。

また、犬にも、人と同様に「癌」や「腫瘍」というものが体に出来てしまいます。

しかし、腫瘍=癌というわけでもなく、悪性のもの・良性のものが存在しますがリンパ腫は悪性度の違いはありますが、すべて悪性腫瘍です。

その中でよく見られる悪性のリンパ腫のタイプについて、解説していきたいと思います。

 

多中心型リンパ腫

リンパ節の中でも「体表リンパ節」というリンパ節の癌を「多中心型リンパ腫」と呼びます。

体表リンパ節は、下顎や脇の下、股の内側、膝の裏といった場所に腫瘍が発生します。
名前のとおり体の表面に表れた時に気付きやすいです。


犬のリンパ腫のうち、80%以上がこの多中心型リンパ腫といわれていて、一番多く発生するリンパ腫です。

さらにこのリンパ腫では通常、数か所が癌化し、一か所だけのリンパ節が癌になることは非常に稀ですので、体のあちこちにできものができるようになります。

消化器型リンパ腫

胃や腸間膜リンパ節や肝臓などの消化器系消化管に発生するリンパ腫で、癌化したリンパ系の細胞が消化管に侵入し、そこで増殖を繰り返すことで発症すると考えられています。

犬のリンパ腫の5~7%がこの消化器型リンパ腫だとされています。

消化管の中でも、胃や十二指腸などの上部消化管で発生することが多いと言われています。

 

前縦隔型リンパ腫(じゅうかくがた)

前縦隔とは、胸の中にある空間のことです。

そこに存在している前縦隔リンパ節、あるいは胸腺が癌化したリンパ腫を前縦隔型リンパ腫と呼びます。

初期には症状が出にくいこともあり、呼吸困難などの症状が出た時にはすでに腫瘍が大きくなっていることが多いです。このタイプのリンパ腫も時々見かけます。

 

皮膚型リンパ腫

皮膚の各組織が癌細胞の侵されるタイプのリンパ腫で、毛包や汗腺といった毛穴の付属器官に癌細胞が侵入しやすいと言われています。

 

皮膚型リンパ腫の見た目の病変は様々で皮膚の、しこりから赤みがどんどん広がったりします。
これら皮膚型リンパ腫の見た目は、他の皮膚病との区別が難しく、診断をより難しいものにしています。

たとえ診断がついて治療に入っても、なかなか治療効果が上がらず、痛みや感染のコントロールができないために安楽死されるケースもあります。

 

その他のタイプのリンパ腫

他にも肝臓や脾臓、あるいは血管に見られるリンパ腫もありますが、非常に稀なタイプだと言われています。

 

犬のリンパ腫の原因

はっきりとした原因はわかっていませんし、他の癌のように原因となる遺伝子も特定されていません。

ウイルス感染・放射線・紫外線・ある種の薬剤・ホルモン・炎症性の疾患・加齢など、複数の要因が重なって発病すると考えられています。 

一説には、ある農薬がリンパ腫の引き金になったり、あるいはタバコがリンパ腫の原因の一つになるのでは、と考える獣医師もいます。

 

犬のリンパ腫の症状

リンパ腫の症状は、そのタイプによっても様々です。

どのリンパ腫にも、基本的には何の症状も示さないで過ごす期間があるため、その時点では、健康診断などでリンパ節の腫れなどを見つけないと、リンパ腫と気づかないことが多いです。

 

また、症状を認める場合でも、リンパ腫に特徴的な症状というのはなく、実に様々な症状が見られるため、症状だけで他の病気と区別することは非常に難しいです。

以下、タイプ別リンパ腫の主な症状を見ていきましょう。

 

多中心型リンパ腫

多中心型リンパ腫は、体にできるしこりが特徴となりますが、全身的な症状を示します。

食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、呼吸困難、発熱などを認めることが多いです。

免疫力が低下してくると、「肺炎」や「膀胱炎」と言った感染症を併発してしまうようになるのです。
さらには一部の多中心型リンパ腫では、ぶどう膜炎や網膜出血といった、目の症状を認めることもあります。

 

消化器型リンパ腫

消化器型リンパ腫では、名前のとおり、嘔吐や下痢、体重減少などの症状を認めます。

腸の粘膜下にあるリンパ組織にリンパ球が増殖し、粘膜が肥厚して本来の機能が果たせなくなります。
進行すると、腸を支配しているリンパ節が腫れたり、さらに進行すれば脾臓や肝臓に転移をすることもあります。

消化器型リンパ腫に特有の症状というのはなく、他の消化器系の病気と症状だけで見分けることは非常に難しいです。

 

前縦隔型リンパ腫

前縦隔型リンパ腫は、胸腔内の胸腺や縦隔リンパ節に腫瘤が発生する病気です。

胸腔内に腫瘤があるため呼吸がしにくく、胸腔内に液体が溜まり胸水を発症します。
胸水が溜まるため呼吸が早くなったり、息苦しそうな呼吸、チアノーゼ(舌が青紫になる)といった呼吸器系の症状を認めるようになります。

初期には症状が出にくいこともあり、呼吸困難などの症状が出た時にはすでに腫瘍が大きくなっていることが多いです。


また、首や前足に「むくみ」を示すこともあります。

皮膚型リンパ腫

皮膚型リンパ腫は、体表の皮膚はもちろん、口の粘膜などに病変を作ることもあります。

また、脳や脊髄などの中枢神経、腎臓、脾臓などに発症することもあります。

皮膚の病変は数年の間、大きさも変わらずそのまま過ごすこともありますし、どんどんと全身に広がるタイプもあります。

 

犬のリンパ腫にかかりやすい犬種は?

獣医学的な文献によると、リンパ腫の好発犬種は、

ボクサー、バセットハウンド、ゴールデンレトリバー、ロットワイラーなどが報告されています。


日本では、ペット保険会社の情報に基づきますが、

ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、フレンチブルドッグ、ウェルシュコーギーに多く見られるようです。


逆にリスクの低い犬種としてダックスフンド、ポメラニアン、アメリカンコッカースパニエルなどが挙げられています。 

犬のリンパ腫の治療方法

早期に治療がはじめられれば、状態は改善しますが、症状が進行すると、残念ながら残された時間はそう長くはありません。
愛犬との残された時間をどんな風に過ごすか、飼い主さんに決めてもらう必要があります。

犬のリンパ腫は、どんな治療法を選んでも間違いではありません。

どんな風に過ごしたいかによって治療法は変わってきます。

 

抗癌剤(化学療法)

リンパ腫は、癌の中でも「抗癌剤(化学療法)」によく反応する癌といわれています。

多くのリンパ腫では抗癌剤(化学療法)を実施することで、症状を改善させたり、余命を伸ばすことができると考えられています。

 

化学療法には、様々な抗癌剤を組み合わせたパターンがいくつもあり、リンパ腫のタイプによって使い分けられたりします。

中には、一種類の抗癌剤だけ使う方法もありますが、抗癌剤を組み合わせる「多剤併用療法」の方が、治療効果が高いと言われています。

 

癌は、体のバランスを無視して、勝手に細胞分裂を繰り返し、どんどんと癌細胞を増殖させてしまいます。
抗癌剤は、その細胞分裂を止めることで、癌の増殖を抑えようとする薬です。

しかし、残念ながらほとんどの抗癌剤は、癌細胞だけでなく正常な細胞の細胞分裂をも止めてしまいます。

 

そのため、抗癌剤は、様々な副作用が見られますし、中には命に関わるような重い副作用が出てしまうこともあるため、治療にあたっては十分な注意が必要です。

 

ほとんどの場合は、抗癌剤治療がメインになりますので、リンパ腫の治療には、時間も手間も費用もかかります。

それぞれの飼い主さんがしっかりと納得した上で続けられる治療方法を選択することが重要で、実際に治療を行う獣医師ときちんと相談しながら治療を進めてください。

 

抗癌剤の注意点

抗癌剤を扱うにあたっては、知っておくべきとても重要なことがあります。

それは、抗癌剤はとても強い薬であるということです。したがって、取り扱いには慎重さが必要です。

特に飲み薬タイプの抗癌剤は、ご自宅で与えることがほとんどですが、その際には、抗癌剤を直接触らないようにすること、また粉薬の場合は、吸い込まないようにすることが大切です。


必ず手袋、マスクを着用した上で扱うようにしてください。

抗癌剤治療を受けている犬の排泄物にも、抗癌剤が混ざることがありますので、排泄物の取り扱いも重要で、特におしっこは十分に水で洗い流すようにしましょう。

 

免疫療法

近年では「免疫療法」を導入する動物病院が増えてきました。

免疫療法とは、自分自身の免疫力で、癌細胞の増殖を抑えようとする治療方法です。

具体的には、自分自身の免疫細胞を取り出して人工的に増殖させ、それを体内に戻すことで免疫力をアップさせる方法や、様々なサプリメントやインターフェロンを用いて、免疫力をアップさせる方法があります。

その効果のほどは、まだ十分に結論づけられていませんが、一定の効果があることが想定されています。

 

リンパ腫が完治することは、なかなか難しいですが、リンパ腫の症状を緩和させたり、あるいは化学療法の副作用を軽くするのに役立つこともあり、実際の診療でも免疫療法をお勧めする獣医師さんがいらっしゃいます。

 

ただし、免疫細胞を増殖させる方法は、まだ研究レベルの治療法で、実施できる施設が限られていますし、長期的な治療のメリットデメリットは今の段階では不明ですので、獣医師とよく相談して検討することが必要です。


また、サプリメントによる治療法は、高品質なものを選ばないと効果がないどころか、体調を崩してしまうものもあるため、サプリメント選びには十分な注意が必要です。

 

がコラムを始めてから、いろいろな病気、治療法を勉強する中で出会った獣医師の推奨している治療法があり、それがとても興味深いです。

 

それは、「抗癌剤の効果をより引き出す」ことが東京大学医学部の実験で確認されている治療法です。

また、癌細胞に対する抗癌効果に関しての論文も欧米の医療ジャーナルで発表された、エビデンスがあるものです。

 

論文掲載の欧米医療ジャーナル



Jounals リポート

Summary

Full Text(PDF)

欧米の医療ジャーナルに発表された論文の日本語翻訳版(PDF)

 

その治療法は免疫細胞を活性化し生命力が落ちないないので、QOLを保ちながら他の治療にも取り組めるといったメリットがあります。

『POC療法』といって、今後代替療法の柱になりうる療法です。

 

東京大学医学部の実験で確認されているお勧めの治療法はこちらの動物病院で実施しています。
お勧めの動物病院

 

犬のリンパ腫の予防

犬のリンパ腫、怖いし、気になりますよね?

リンパ腫で注意することはどんなこと? どんな予防方法があるのか。

現在は原因が解明されていないため、これといった予防法はありません。
しかし、以下のような毎日の生活とケアのなかで、免疫力を高めたり、早期発見することはできるはずです。

・良質な栄養のある食事をバランスよく与える
・適度な運動をする
・ストレスをためないように生活環境を整えてあげる
・ブラッシングや口腔内ケアをしながら、シコリや腫れがないか、毎日チェックする

 

そして、リンパ腫も他の病気と同じように、早期発見、早期治療を行うことで、犬の負担を少なくする、つまり苦しい思いをさせる割合が減らすことができます。

 

リンパ腫の初期は、ほとんど何の症状も見られませんので、できれば早期発見するためには、普段から体表のリンパ節をチェックする、定期的に健康診断を受ける、といったことが有効です。

 

初期のリンパ腫は、健康診断で見つかることが多く、症状が出てからのリンパ腫、つまり進行したリンパ腫よりも、治療効果が比較的高いです。

しかし残念ながら獣医学的な証拠は現段階ではありませんが、飼い主さんが愛犬を気遣ってあげるだけでも、早期発見ができるのではないでしょうか。

 

まとめ

犬にも腫瘍性疾患は年々増加しています。

リンパ腫は珍しい病気ではなく、治療法も確立してきている病気ですが、罹患すれば完治を望むことが難しい腫瘍でもあります。
しかし、良好な予後も期待できないわけでもありません。


愛犬にとっての最善の治療法は、愛犬の年齢や症状に応じて、飼い主さんが判断してあげることなのかもしれません。

万が一余命が短いとの診断の場合には、愛犬のQOL(生活の質)を大切にしてあげたいですね。

疑わしい症状があった場合には、できるだけ早く、適切な診察を受け、治療に入ることが大切です。

 

日頃から免疫力を高めておくことが重要です。

是非、普段からそのような生活習慣の改善に取り組んでいただければと思います。


また、リンパ節やリンパ系の細胞は、体の免疫を担う器官、組織ですので、日頃から「生活環境」、「食事内容」、「サプリメントの摂取」、「運動」など、犬にとって良いもの、良い環境整備を心がけ免疫力を強化することは有効かもしれません。

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